正則性公理と集合論の世界

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この記事はhydrogen Advent Calender 2024の6日目の記事です。

そもそも正則性公理とは

正則性公理とは、空でない集合は自身と交わらない元を持つという次のような主張である。

x(axy(yxz(zxzy)))\forall x (\exists a \in x \Rightarrow \exists y (y \in x \land \forall z (z \in x \Rightarrow z \notin y)))

xxx \notin x

ここから、xxx \notin xが次のようにして導かれる。

集合{x}\{x\}に対して、正則性公理を適用すると

y(y{x}z(z{x}zy))\exists y (y \in \{x\} \land \forall z (z \in \{x\} \Rightarrow z \notin y))

{x}\{x\}xx以外の元を持たないのでyy及びzzxx以外を取りえないから

xxx \notin x

累積的階層

一昨日の記事では、この正則性公理が極めて重大な意味を持つことを述べた。それについて解説していこう。

順序数α\alphaに対してVαV_\alphaを次のように定義する。順序数については昨日の記事を参照してほしい。

V0:=Vα+1:=P(Vα)Vλ:=β<λVβ(λは極限順序数)\begin{align*} V_0 &:= \emptyset \\ V_{\alpha+1} &:= \mathcal{P}(V_\alpha) \\ V_\lambda &:= \bigcup_{\beta<\lambda}V_\beta &(\lambda\text{は極限順序数}) \end{align*}

このVαV_\alphaは空集合から始まり、そのひとつ前のVαV_\alphaの冪集合を取ることで次のVα+1V_{\alpha+1}を定め、極限順序数の場合はそれまでのVβV_\betaを取りまとめることでVλV_\lambdaを定める。

そして、正則性公理は次のような主張と同値である。

xα(xVα)\forall x \exists \alpha (x \in V_\alpha)

これは、どんな集合であってもそれが何らかのVαV_\alphaの元であるということを述べている。

そして、VαV_\alphaは空集合から冪集合を取り続けてまとめていくことで得られるものであるから、すなわちいかなる集合も空集合から作られるということを意味している。

そのため、一昨日の記事では空集合は全ての集合の「親」であるとも言えると述べたのだ。

因みに、xVαx\in V_\alphaを満たすような最小のα\alphaxxの階数と呼び、rank(x)\operatorname{rank}(x)と書く。