置換公理図式

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この記事はhydrogen Advent Calender 2024の8日目の記事です。

置換公理図式とは

ϕ\phizzを自由変数として持たない集合論上の1階述語論理式とすると、次の公理図式が成り立つ。

xy(w(wx!yϕ(w,y))zw(wxy(yzϕ(w,y))))\forall x \forall y (\forall w (w \in x \Rightarrow \exists! y \phi(w,y)) \Rightarrow \exists z \forall w (w \in x \Rightarrow \exists y (y \in z \land \phi(w,y))))

これの役割を端的に言えばmapである。集合を論理式でmapしたものを集合として取り出すことができるというものである。

この公理図式は、1つのϕ\phiに対して1つの公理を与えるものであるのでZFC公理系は無限個の公理からなる。

なぜ、このように解釈するのかというと数学は1階述語論理で記述されるものであるためである。この公理図式を1つの公理として扱うにはϕ\phiを量化する必要があるが、それを可能にするには2階以上の述語論理が必要となる。だが、高階述語論理は単に扱いづらいのみならず、完全で健全で証明を検証するアルゴリズムを持つような体系を作ることができないことがゲーテルの不完全性定理によって示されているため用いられていないというわけである。

分出公理図式

ϕ\phiyyを自由変数として持たない集合論上の1階述語論理式とすると、次の公理図式が成り立つ。

xyz(zyzxϕ(z))\forall x \exists y \forall z (z \in y \Leftrightarrow z \in x \land \phi(z))

これの機能は端的に言えばfilterである。集合を論理式でfilterしたものを集合として取り出すことができるというものである。

なぜこれを取り上げたかというと、置換公理図式から分出公理図式を導出することができるからである。

置換公理図式から分出公理図式を導出する

条件を満たす論理式をψ\psiとする。

ψ(z)\psi(z)なるzxz\in xが存在しないとき、yyは一切元を持たない。このような集合の存在は空集合公理から導かれる。

ψ(z)\psi(z)なるzxz\in xが存在するとき、そのようなzzを用いて置換公理図式のϕ\phiを次のように定める。

ϕ(w,y)(ψ(w)y=w)(¬ψ(w)y=z)\phi(w,y) \leftrightarrow (\psi(w)\land y=w)\lor(\neg\psi(w)\land y=z)

このとき、zz自身とψ\psiを満たさないようなwwはすべてzzとなり、ψ\psiを満たすようなwwはすべてwwとなる。

このようにして、置換公理図式から分出公理図式を導出することができる。

順序数ω+ω\omega + \omega

5日目の記事でさらっと触れたが、順序数ω\omegaに対して後者関数SSを適用することでω+1\omega+1を定義することができる。このようにして、ω+n\omega+nを定義することができ、その極限としてω+ω\omega+\omegaを定義することができる。

このω+ω\omega+\omegaを得るには実は置換公理図式が必要となるのだ。

xωx\in \omegaに対してϕ\phiを次のように定める。

ϕ(x,y)y=ω+x\phi(x,y) \leftrightarrow y = \omega + x

このようにすると、z={ω+1,ω+2,}z=\{\omega+1,\omega+2,\ldots\}なる集合zzの存在が示され、和集合公理から次のようにしてω+ω\omega+\omegaが得られる。

ω+ω=z\omega+\omega = \bigcup z

余談

ZF公理系からこの置換公理図式を除いたものをZと呼ぶ。この意味でこの置換公理図式はZF公理系のFの部分ということができるかもしれない。